管理人は超つらいよ
マンション管理最前線 部屋番号7806
「監事」という役職 その立ち位置 そして、その選任方法 |
今回の話題は、私の得意分野ではなく、本来、「法律問題とかが好きなマンション管理士さん」とかが書く話のため、面白い話ではありませんが、どうかおつきあい下さい。
マンション管理組合の「役員」の中で、ちょっと異質の役職があります。「監事」というものです。当HPでも過去にこんな記事を書いています。
では、ここで「管理組合」の役員について、標準管理規約の条文を見てみましょう。
※標準管理規約とは、法律ではありません。「これを参考にして、皆さんのマンションで独自の管理規約を作ってくださいね」という、あくまでも、雛形、参考文献、おすすめ、であり、完全に従う義務はありません。しかし、分譲会社においては、「これを丸写しにするのが一番ラク」と安易な考えで、まるっきり同じ管理規約を作っていることが多いのです。(だから、不備が多く、あとで規約をいろいろといじらないといけなくなる)
標準管理規約
第35条 管理組合に次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長 ○名
三 会計担当理事 ○名
四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名
五 監事 ○名
2 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
(改正:現に居住の条件がなくなった。)
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。
この文章もややこしいです。一二三と別々の役職が来てるのに、四で「理事長・副理事長・会計担当理事を含む」と書いてあるのがわかりにくいです。「いったい、役員は合計で何人なんだよ?」って迷ってしまいます。これは、私がもし、そのマンションの管理規約の条文を書くのであれば、
当管理組合には合計で10名の役員を置き、その役員は2種類に分別される。一種類目は「理事」(9名)、二種類目は「監事」(1名)である。
理事の中には、「理事長」「副理事長2名」「会計担当理事1名」「その他、管理組合が必要とした役職の理事」を置く。
って感じで書くと思います。理事の人数が9名という「奇数」にしているところもポイントです。「賛成と反対が同数」というのがなく、5人で過半数になりますから。
さて、条文ではわかりにくいものの、私の案で読んでもらうとわかりやすいかと思いますが、「理事」と「監事」は完全に別物なんです。「監事」は「理事ら」の行動を監視する役目があるので、同じ立場ではまずいのです。現実社会でも「警察を取り締まる別組織の監視組織がない」ことから、警察官の犯罪がものすごいことになっていますし、「国会議員の選挙制度に関する法律を国会議員が作っている」ことから、「小選挙区制」とか「政党助成金」とか、めちゃくちゃな制度が生まれています。
。
続いて、以下のような条文をご紹介します。
第53条 理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。これを解説しますと、「理事会」というのは、「役員会」ではなく、文字通り「理事会」であって、「理事」の会なんです。そう、理事会において、監事はカウントされません。「全部で役員は10人。うち、理事は9名 監事は1名」というマンションで、理事会に出てきたのが「理事が4名 監事が1名」という場合、出席者数は、一見、「5名」に思えて、「5人なんだから、全10名に対して、半数以上の出席だ。だから、これで理事会は成立する」って考えるかもしれませんが、これは、厳密には「不成立」です。
第41条−3
監事は、理事会に出席して意見を述べることができる。
理事は9名なので、半数以上は5名以上ってことになります。今回の出席理事は4名なので、半数未満です。だから、その理事会は不成立です。
ややこしいですね。でも、こういう勘違いをしているマンションは、けっこう多いのです。「管理業務主任者」の有資格者である「管理会社のフロント」でさえも、わかっていないケースがあるんですから。(もちろん、わかっているフロントもいますが、毎回、出席者数が少なくて、不成立の確率が高い理事会では、わざと、「監事」を出席人数に入れてしまう場合もあります。そのマンションの役員の人が無知なのを悪用して。そうしないと理事会が成立しないわけですから、現実問題と考えて、大目に見てあげて欲しい気もします)
「出席者数」の話は、置いておいて、次に、議決の話をしますが、その理事会の出席者が「理事4名 監事1名」の場合、「議事は出席理事の過半数で決まる」となっていますので、条文に正確に即して考えますと、「理事は4名だから、過半数というのは3名」ということになります。これ、けっこうハードルが高いかもしれません。ここで、出席している監事が、「はい、僕も賛成します」と手を挙げることがありますが、実はこれ、まったく無意味です。監事には議決権はないからです。(私が規約を作る場合は、はっきりと「監事には
理事会においての議決権はないが、意見を述べることはできる」と書くでしょう。
こういう区分がわかっていない理事会では、「理事4名 監事1名だから、計5名」「5名における過半数は3名」「理事2名と監事1名の計3名が賛成すれば可決」と考えてしまうことが多いです。でも、これ、規則に厳密に従うと、実際には「否決」なんです。
やっぱ、ややこしいです。
<ちょっと横道>
法律文のややこしさの問題はこれだけではありません。
こんなのもあります。(愛読者の皆さんには耳タコですね。すいません)
区分所有法第42条
「議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名押印しなければならない。」
これが、「議長1名 & 出席した区分所有者1名 計2名 という意味でしょ?」って読み取る人が多いのです。実は私も昔、そう思ってました。これ、いまだに、そう思っている人が多く、管理会社の中の全員が、そう思っていて、「定期総会議事録」の最終ページの署名欄が「2名分しかない」っていうフォーマットになっている管理会社を、私は知っています。句読点をちゃんとつけないからだめなんです。こういうのも、法律条文を書く人が「一般人の常識」を知らないってことなんですよね。困ったもんです。これって「合計3名」って、書き加えてあげれば、そんな誤解は生まないのに。配慮が足りませんね。
なお、これは、現行の「標準管理規約」では、
議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及び議長の指名する2名の総会に出席した組合員がこれに署名押印しなければならない。このように、微妙に改訂されており、「合計3名」という記述はないものの、「もしかして、合計3名って意味なのかもしれない」って推測させるようになっています。多少はましです。
さて、話を「監事」に戻します。今度は「選任方法」について考察します。(おおもとの選び方である、「輪番制」とか「立候補制」に関しては、法的な指針は何もないので、そこには今回は触れません)
2 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。
(改正:現に居住の条件がなくなった。)
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。
「選任方法」については、標準管理規約では上記のとおりなんですが、これが非常にラピート、もとい、難解です。これはですね、「制限速度30キロだけど、30キロを守っている原付バイクなんか1台もない」のと同じくらい守られていません。
標準管理規約に従うと、総会議案には、「理事になる人は誰それ、監事になる人は誰それ」と分別して記載しないといけないのです。つまり、議案を作成する段階で、「理事長が誰になるのかはまだ決めておかなくていい」しかし「監事はAさんにお願いします」と決定しておかないといけないってこと。そう、「監事だけ」は事前、決定が必要になるのです。
しか〜し。こういうことをちゃんとやっている管理組合は非常に少ないのが現実です。
実際の議案書は、「来年度の役員予定者は、A氏・B氏・C氏・・・・・・の、以上10名です。ご承認をお願いします」とかになっていることがほとんどです。「誰が監事」とは書いていないのです。
そして、標準管理規約に沿って考えると、「理事は誰それ」「監事は誰それ」というのだけは、総会議案として決定し、総会で議決されたら、(たいていは、総会終了後に新年度の第一回理事会が開催されることが多い) 初回理事会で、監事は除外して、「理事」だけで、理事の間で、「理事長は誰にしましょうか?」「会計は誰にしましょうか?」って話し合って決めることになります。しかし、これも、現実には、新役員が全員で集まり、「あなたは理事長」「あなたは監事」というふうに、監事職を含めて決めています。これは、本当は「管理規約違反」ということになりますが、事実上、「黙認」状態にあります。
役員の資格要件についても、本当は「組合員=区分所有者だけ」なので、「夫が区分所有者」で「妻は区分所有者ではない」という場合に、妻が役員として理事会に出ることはできません。でも、現実には「主人は人前に出るのが嫌いなので私が代わりにやります」と奥さんがずっと役員をやっている場合もあり、このように、「現実と規則は違っている」ということは多々あるのです。そのため、運営側である我々管理会社は、「そういうのを厳密に突っ込まれると、全部負ける」ってことになり、「お願いだから、突っ込まないでね」と思っていたりします。
現実の管理組合運営は本当に大変ですよ。