管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「直」「外」「外出し」
管理会社が関与しない直接契約なるもの

2021/5




植木屋さんは管理組合との直接契約だったりする



「ナカ」「ソト」「外出し」「直(ちょく)」・・・・ なんか、居酒屋でホッピーを頼む時みたいな用語ですが、マンション管理でも、このような言葉を使うことがあります。今回はそのお話です。

マンション管理の専門家で、各種マスコミでも活躍している「須藤桂一さん」という人がいらっしゃいます。

この前、この人が書いた記事を読んでいたら「異常に安すぎる管理委託費」の金額が出てきて、「いくらなんでも、こんなに安いわけないだろ」とツイートしたら、ご本人から返答が来て、「このマンションの管理委託費は、いろいろなものが直契約になって、外に出ているために安いんです」という説明がありました。

そうなんです。「管理委託費の中身の項目」って、皆さん、「どの管理会社も同じでしょ」「どのマンションでも同じでしょ」って思われるかもしれませんが、実は、マンション毎に違っていて、中身を精査しないまま、条件を同一にしない状態で、「あそこの会社の委託費は安い」「高い」とか、安直には言えないものなのです。

そうなんです。項目によって、「管理委託費(=つまり、管理会社の仕事のこと)の中に入っていないもの」があったりするのです。

「植栽管理」・・・つまり、害虫消毒とか植木の剪定のことです。普通は「管理委託費の中に入っているものですが、「理事長の知り合いの植栽業者に直接発注してやってもらっている」なんて場合は、委託費の中には含まれていません。

「雑排水管清掃」・・・これも普通は、管理会社の仕事として「管理委託費」の中に含まれているものですが、「ある役員の知り合いの業者が安かったので、管理組合から、そこに直接発注している」というパターンがあります。

その他、
「貯水槽清掃」「エレベーター保守管理」「防犯カメラシステム」「消防設備点検」などなど、いろいろなものを、「管理会社がやる」のではなく、「管理組合が直接業者に発注してやらせている」ことがあるのです。




これ、「住民の中に知り合いがいるから」とか「そういう仕事をやっている住民がいるので、その住民の会社に頼む」といった理由が多いですが、それ以外にも「管理にかけるお金は1円でも安いほうがいい」という熱血役員がいる場合、「自分で安い業者を探してきて、そこに直接発注する」ということもあります。

管理会社に頼む場合、管理会社としては、植木なんかは当然下請けの「植栽業者」に頼むわけですが、この際、1割〜3割の手数料を加算して、管理組合さんに請求するのが当然です。管理会社が元請けになることの「責任料」という意味合いもありますし、実際必要になる事務の手数料の要素もあります。これは「管理委託費」の中に含まれますから、通称「ナカ」と呼びます。

これが、管理組合が直接、その業者に発注する「直接契約」(管理委託費の中には含まれないため、「外」と呼ばれたりする)では、管理会社がとる手数料がないので、当然、安くなります。

直接契約すれば安くなるのは自明の理ですが、当然、欠点もあります。

まずは、その業者に「発注をする」という事務の手間が必要です。担当の役員が発注を忘れると、仕事に来てくれません。また、その作業を実施する旨の「広報」「お知らせ」も管理組合がしないといけません。雑排水管清掃なんかは、「全世帯に予告通知を配布する」ものです。手間はかなりかかります。大きなマンションだと、ブロックごとに実施日も異なりますから、その部屋に合わせて予告通知書類も変えないといけません。さらに「うちは10時前には来てもらわないと困るわね」なんていう要望の受付も管理会社はしません。(管理会社がやる作業ではないから) ですから、そういう要望も管理組合が受け付けます。
実際に作業をする時も、管理会社が発注した作業であれば、フロントなり管理人が、その作業の監視をして、必要があれば注意をしたり、改善させたりしますが、これも直接契約の場合は、管理会社はしません。さらに「あのやり方はひどかったわね。やり直してよ」なんて苦情が出た場合も、管理会社は無関係です。管理人ではなく、管理組合が苦情を受け付けて、業者に連絡して、やり直しの日程を組んで、作業をしてもらいます。
こういった面倒なことを全部、管理組合の役員さんがやらないといけないのです。

※なお、「料金の支払い」に関しては、管理会社の仕事の「出納業務」になるので、管理会社と関係のない工事でも、管理会社が支払い事務は行ないます。


担当の役員さんは、「なんで、あたしが、そんな苦情の受付をしないといけないのよ!」と怒るかもしれません。

「安く済ませる」というのは、こういうことなんです。

防犯カメラシステムを「直契約」で取り付けた某マンションでは、管理会社がからんでおらず、また、組合役員の中に防犯カメラに詳しい人がいなかったため、業者に適切な指示もできず、「おかしな場所に設置してしまった」「カメラの角度が悪い」「ものすごく使いにくいレコーダーを選択した」「”作動中”のステッカーも貼ってない」「配線が外観上すごくみっともない」など、不具合がいっぱいありました。さらに、その会社が1年後に倒産してしまいました。これにより、「設置後5年間は保証期間で、レコーダーが故障しても、すぐ新品に交換します」という保証規定が反故にされてしまいました。2年後にレコーダーが壊れましたが、交換はしてもらえず、管理組合がまた50万円とかの大金を払って、新しいレコーダーを購入しました。
これも「管理会社」に頼んでいれば、適切な機材選定をして、適切に設置したでしょうし、たとえ施工会社が倒産しても、管理会社の責任で、保証内容を果たし、無料で新品交換したはずです。アフターサービスも継続されるわけです。


こうやって、当初「安いから」と思って「直接契約」(外出し)にしても、「実際にかかる手間が大変だった」「保証のこととか考えれば、多少高くても管理会社に任せるほうがいい」と学習して、「ナカ」に戻すマンションもあります。

こんな感じで、ひとくちに「管理委託費」といっても、「ナカ」「ソト」のことを精査して比べないと、一概に、「あの管理会社は高い」「あそこは安いなあ。いいなあ」と決められないことに注意して下さい。特に、「非常に金額の高い エレベーター保守費用」を「外」にしているマンションの管理委託費はドカンと安くなります。

※しかし、エレベーターを「直接契約」にしたら、「エレベーター更新工事の時に必要になる莫大な手間」
を、すべて、管理組合役員さんがやらないといけないんですよ。覚悟してくださいね。




追加情報として、「リプレイスの際に起きやすい外出し」について説明しておきます。

リプレイスする場合って、数社の候補管理会社を競わせると思いますが、ここで大事になるのが、やっぱり、「お金」。つまり「管理委託費」です。
リプレイスをゲットしようと考える、応募管理会社は、「管理委託費をなんとか低く提示したい」とがんばります。この時に、「管理会社の利益は下げないで、見せかけの管理委託費を下げる」という手法があります。それが、今まで説明してきた「外出し」「直契約」です。

「植栽管理を外出しにする」「排水管清掃を外出しにする」「受水槽清掃を外出しにする」・・・・・こうすると、見せかけの管理委託費がぐっと安くなり、住民さんたちは「おたく安いねえ。じゃあ、新管理会社はおたくにするよ」と決めるかもしれません。

でも・・・ 上述のとおり、「直接契約」にしてあると、発注〜事前告知〜施工監理〜苦情受付〜アフターサービスなどなど、管理会社でやってくれないで、組合さんがやらないといけなくなります。

「良質な管理を求めてリプレイスした」はずなのに、お金が安くなったものの、管理組合の負担がどかんと増大します。これを良しとするか、失敗したと考えるかは、そのマンションの事情で変わりますが、後悔するほうが多いのではないでしょうか?

そういうわけで、リプレイスの際に「管理委託費の金額を比較する」時は、できれば「外出し」は一切なくて、「全部管理会社に任せた場合」という「統一基準」を作って比較検討することが大切です。お気をつけ下さいませ。




※それから、非常に細かい話で恐縮ですが、「管理室で使用する電話代」を「最初から管理委託費の中に入れて計算する管理会社」と「管理委託費とは別に実費分を別途請求する管理会社」もあります。年間で5万円くらいにはなりますから、こういうのも細かく見ておくことが大事かもしれません。(管理委託費の中に入れる場合は、定額で計算し、「ものすごく電話を使用して電話代が1万円を超えてしまった月がある」としても、その分は管理会社がかぶります)